INSIGHT & OUTSIGHT
クラムボンのイメージ(筆者作)

今月(2021年11月)発行になった雑誌「Paper Sky」と「Coyote」がどちらも宮沢賢治を特集している。両誌ともに旅を軸にアウトドア・ライフスタイル、ファッション、フード、音楽や文学などをテーマにしたカルチャー・マガジンだ。こう書くと似ているようで、全然異なる個性の雑誌だが、僕はどちらも好きで創刊時から愛読している。その「Paper Sky」と「Coyote」が同じ月の号で「宮沢賢治」の特集を組んだ。ルーカス(PaperSky編集長)と新井さん(Coyote編集長)が結託して何かを仕掛けようとしているのか?そう言えば東京オリンピックの閉会式でも大竹しのぶが「星めぐりの歌」を子供達と歌っていた。宮沢賢治ブーム到来なのか?そうでもないらしい。SNSの検索でも特にバズった形跡はない。実は僕自身も、宮沢賢治と言われて明確に浮かぶイメージが無かった。「銀河鉄道の夜」や「アメニモマケズ」「注文の多い料理店」などが左脳的には想起されるが、なぜか「キックキックトントン」というリズミカルな表現や「くらむぼんはかぷかぷわらったよ」というフレーズを思い出した。50年以上前、小学校の国語の教科書に出てきた耳慣れない言葉、リズム。前後の関係は全く覚えていないが、宮沢賢治という人が書いた文章だという事とこの二つのフレーズは半世紀の時を経て僕の頭の中に蘇ってきた。ネット検索で調べて見ると前者は「雪わたり」、後者は「やまなし」という作品の中に出てくるフレーズであることが瞬時にわかった。そして今では著作権が消滅しているため、全文を青空文庫で無料で読むことができる。そして読んでみた。100年以上前の日本で、このようなリズミカルでキャッチーな言葉(キャッチーな言葉はすぐ古びてしまうのが一般的だが永遠にキャッチーな言葉)をどのようにして創出する事ができたのだろう?銀河鉄道の夜の登場人物にしても、この時代に「ジョバンニ」と「カンパネルラ」ですよ!今のようにインターネットがある時代ではなく、鎖国が開けて間もない日本で、しかもみちのくの岩手で、どうやってこのような想像の翼を広げる事が出来たのだろうか?また、賢治は作家としてだけでなく美術や音楽や科学、農業など多彩な側面を持っていた。レオナルド・ダ・ビンチやバックミンスター・フラーとも通じるものがあるのではないかという気もする。宇宙と繋がっている人だ。決して、賢治ファンでは無かった僕が、教科書以来50年ぶりに賢治に触れ、あらためてすごく興味を抱いた。イチとゼロの組み合わせからは、決して生まれないゆらぎのような表現と、ゆらぎを感じ取れる感受性、こういった感性を今の人間の体が欲しているのかも知れない。賢治の故郷、イーハトーブを旅してみたいと思った。

11月発売のPaperSkyとCoyote