先日、代官山蔦屋に行った。SFフェアなるものが開催されており、マニアの方々が集まっていた。場違いな空気を感じつつも、折角なので「お薦めは?」と聞いたところ、早川書房の編集者とおぼしき方に薦められて「プロジェクト・ヘイルメアリー」というSF小説を購入した。作者は映画「オデッセイ(原作は「火星の人」)」の原作者アンディ・ウィアー。正直、「オデッセイ」は飛行機の中で観てはいたもののアンディ・ウィアーという方の作品と言う事も今回知った。
僕は特にSFマニアというわけではないので、過去に観たり読んだりしたSF作品は、「2001年宇宙の旅」「デイ・アフター・トモロー」「ソラリス」「紙の動物園」など数えるほど(村上春樹もSF小説に混じえるのであれば膨大な量を読んでるけど)。最近、SiFiプロトタイピングなるもののワークショップに参加したりした影響で短編を読んだり、自分でもショートストーリーを書いてみたりした、その程度。
ところが、この小説「プロジェクト・ヘイルメアリー」は60オーバーの初老の少年がワクワクする要素をたっぷりと備えた小説だった。地球滅亡の危機、銀河系を脱出、異星人との出会いと協業、そして友情、異星での生活など、列挙すると子供だましのようなストーリーにも思えるのだが、主人公の失われた記憶と現在進行形(と言っても相対性理論の時空の中で)で進むデュアルなストーリーのテンポが絶妙でどんどん読み進めてしまう。異星人との出会いが、シュールではあるものの、宇宙で異星人に出会ったらこのような手順でコミュニケーションを進めれば良いのかと思わず納得してしまう。異星人はクモのような姿だが、音楽のように和音によるバーバルコミュニケーションを取り、視覚ではなく電波の反射で物を感知し、6本の手を巧みに使ってテキパキとエンジニアリングを行う。
COVID19、ロシア・ウクライナ戦争と世界が大きな変化を経験している今、地球という星の中で、人間という同じ種族同士が本当に愚かな理由で、殺しあっている。また、ささいな欲求のために環境を壊している。この小説のように、今後、宇宙レベルで起こる災害や不確実性によって、人類が、あるいは地球が滅亡するリスクがないとは言い切れない。また、昔は宇宙人というと、地球侵略という短絡的なシナリオが準備されていたが、宇宙空間に出てこれるような文明を持った生命体であれば、直面している課題に対して協業して解決するという選択肢も考えられる。細胞がここまで進化した奇跡を我々は絶やしてはならない。
「人間が想像できることは必ず人間が実現できる」とジュール・ヴェルヌは言ったが、いつか地球滅亡の危機に遭遇する時も来るかも知れないし、銀河系を出て地球外生命体に出会う日も来るだろう。その時に我々の子孫が、この小説のように成熟した生命体として、異星人とコミュニケーションが取れることを願いたい。その前に、我々人類は、人類に対しても、人類以外の生命に対してもっとインクルーシブになる必要があるが。
これまでにない、新しいタイプのSF小説。上下巻あるが、早川書房の方が「読み出したら止まらなくなるのでしっかり時間を確保してからお読みください。」とアドバイスをしてくれたように、読み出したら止まらなくなるのでご注意を。