大正時代に世界を巡って自然を描いた版画家、吉田博氏の没後70周年を記念して東京都美術館で行われた。コロナの只中ではあるが、上野に足を運んだ。吉田博氏の版画はダイアナ妃の執務室に飾られていた事やアウトドアブランドのカタログの表紙に使用された事などから、目にしている方は多いと思うが、同時代の黒田清輝氏等の洋画家と比べると、日本における知名度はさして高くないと思われる。私は、この回顧展を3年前に郡山市美術館で見て、今回の上野にも2回足を運んだ。郡山は残念ながら、2回の入れ替えのうち1回(つまり半分)しか見れなかったが、今回の上野は全貌を見る事が出来た。生涯にわたって、描き続けた作品の量に圧倒され、版画でここまで表現できるんだという技術の高さと表現力に圧倒され、大正から昭和初期という時代において、世界中を、しかも自然の中を駆け回ったそのバイタリティに圧倒された。そして、世界のアーティストが浮世絵にインスピレーションを得ていた時代に、浮世絵を目標とせずに浮世絵を超える自らのオリジナルを生み出した気概と創造性は外国との行き来がそう多くなかった時代に、世界レベルの感性を生まれながらにして持っていたように思える。一方で当時の日本の美術は、パリをはじめとするヨーロッパに強い影響を受けていて、黒田清輝氏らに長い間スポットが当たり続けていて、私も美術の授業で吉田博氏の名前を聞いた記憶はない。しかし、今こうして見て、どちらが心を大きくゆさぶられるだろうか。個人差はあろうが、私は間違いなく、「吉田博」だ。時代のムードというものに流されず、評論に惑わされず、本質を見抜く目を養いたいと思う。100年後に自分の書いた文章を読んで、後悔しないように
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