INSIGHT & OUTSIGHT

今日、国立近代美術館で開催中の隈研吾展に行ってきた。7月23日にオリンピック開会式が行われる国立競技場の設計者の個展だ。隈さんがこれまでに設計した世界中の数々の美しい建築物の模型や映像は圧巻なのだが、僕のお目当は「ネコの視点から都市を見直すリサーチプロジェクト《東京計画2020 ネコちゃん建築の5656原則》」だ。ネコちゃんの目線で建築を考えてみるというテーマで、デザインファーム・タクラムの協力を得て、ネコにGPSを付けて行動を解析し、ネコの行動を再現し、新たな公共性を構築するというもの。先週、国連大学で行われたパビリオン東京のシンポジウムで隈さんがこの事に触れており、とても興味深かったので展示会場に足を運んで見た。

職業柄、人々の行動を「この人の行動の奥底にあるものは何だろう??」と、つい考えてしまう。いわゆるinsightというやつだ。定量アンケートでは表れない、本人もわからない行動や欲望の源泉のようなもの。隈さんの話を聞き、展示を見て、ネコちゃんにもinsightはあるのだろうか?と疑問に思った。ワンちゃんもネコちゃんも飼ったことはないので、私にはよくわからない。多分彼らにはInsigtのようなまどろっこしいものはなく、Instinct=本能で動いているのではないか。経験と記憶が蓄積されてくるとIntuition=直感も効いてくるのかも知れない。

人間には、マズローの欲求五段階説のように、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求など、面倒臭い(失礼、人間臭い)心理的な欲求があるそうだ。高度化し、成熟化した社会においては自己実現の欲求が今日求められているようだったが、世界的なパンデミックの状況の中で、安全欲求のフェイズに戻ったり、各地で頻発する災害においては生理欲求すら満たされない状況に逆戻りする事も起こりうる。このような状況に陥っても、人間は本能のみでは動かない。他者との関係性を意識したり、心に聞いて見たりしながら、人間らしく行動するのだ。その人間らしさが、不可解であり、本人すら分からないinsightなのだ。隈さんのとらえたかった、ネコ目線から見た新しい公共性の話とは全然別なところに興味が飛んでしまったが、ネコや犬と本音で会話が出来たら(多分彼らは本音しか言わないだろうけど)どんなに楽しい事だろう。